二段商標で出願すべきか?
弁理士児嶋の商標ブログ
令和6年7月31日
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令和6年7月31日
「二段商標」とは、上下二段の横書きの文字列で構成される商標です。
最もポピュラーなものは、上段がローマ字、下段がカタカナで、下段が上段の読みがなとなっている商標です。例えば次のような商標です。
KOJIMA
コ ジ マ
実際、このような二段商標は数多く商標登録されています。しかしながら、弊所では原則としておすすめしていません。その理由は以下の通りです。
理由1)意味が乏しいから
二段商標でも、「KOJIMA」だけまたは「コジマ」だけの商標でも、排他権の効力は変わりません。いずれも同じ称呼(コジマ)だからです(商標法37条1項)。
したがって、他人による同一または類似商標の使用を排除するには、いずれか一方を登録すれば十分です。わざわざ二段構成にする意味はほとんどありません。
*称呼:需要者による商標の自然な読み方。称呼が1音違う商標までが原則として類似となります。
理由2)実用的でないから
専用権は登録商標の使用、すなわち二段商標の使用のみに認められます(25条)。権利者が実際に二段商標の形で使用するなら問題ありません。しかし、「KOJIMA」だけまたは「コジマ」だけの使用では、登録商標の使用にはなりません。
したがって、二段商標で商標登録しても「KOJIMA」だけまたは「コジマ」だけに商標登録表示(Rマーク等)を付けることはできません(74条1項)。もしこれらにRマーク等を付けると、厳密には違法となり懲役刑の対象になります(80条)。また、「KOJIMA」だけまたは「コジマ」だけの使用を他人にライセンスすることもできません(30条、31条)。
理由3)リスクがあるから
上述の通り、「KOJIMA」だけまたは「コジマ」だけの使用では、登録商標の使用にはなりません。この場合、商標登録から3年後に他人から不使用取消審判を請求されて登録が取り消される危険性があります。
「不使用取消審判」とは、継続して3年以上国内で登録商標を使用していないときは誰でも登録取消審判を特許庁に請求できるという制度です(50条、38条5項)。
以上3つの理由から、お客様が現実に二段商標を使用されるつもりでない限り、弊所は原則として二段商標をおすすめしていません。
お客様が排他権を重視される場合は「KOJIMA」か「コジマ」のどちらかよく使用する方をおすすめし、Rマークをどちらにも付けたい場合は「KOJIMA」と「コジマ」を別々に出願することをおすすめしています。
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また、上段と下段の称呼が異なる二段商標も数多く商標登録されています。例えば次のような商標です。
KOJIMA
ゴ ジ ラ
このような二段商標(三段以上のものも含む)での出願・登録も原則としておすすめできません。なぜなら、このような商標登録によって排除できる他人の商標は、原則として、称呼が「コジマゴジラ」と同一または類似する商標だけだからです。すなわち、他人による「KOJIMA」の使用も「ゴジラ」の使用も排除できないため、登録しても無意味です。
おそらく出願人は、1件分の出願費用で2つの商標を保護できるからお得だと考えているのかもしれません。しかしながら、このような商標登録では当然、上下どちらの商標も保護されません。なぜなら、もしそれが認められるなら、1件の出願の中にあらゆる言葉を詰め込めばよいことになってしまうからです。
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また、上段が漢字で下段がその特殊な読み仮名である二段商標も数多く商標登録されています。例えば次の様な商標です
児 嶋
チャイルドアイランド
このような二段商標については、出願・登録する意義はあり、弊所としても否定するものではありません。
このような二段商標は、漢字の下に比較的小さなフォントのカタカナを用いる等によって、上段の漢字を「コジマ」ではなく、あえてその英訳である「チャイルドアイランド」と読ませたいという使用者の意図が、全体の外観から明らかです。
したがって、この商標の称呼は「コジマチャイルドアイランド」ではなく、「チャイルドアイランド」となり、他人による「チャイルドアイランド」の使用を排除できます。そのかわり、「コジマ」の排除は難しいと思われます。
参照条文(商標法)
第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
第七十四条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 登録商標以外の商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
第八十条 第七十四条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
第三十条 商標権者は、その商標権について専用使用権を設定することができる。ただし、第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権及び地域団体商標に係る商標権については、この限りでない。
2 専用使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
第三十一条 商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。
2 通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有する。
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
第三十八条
5 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。