今月1日から、経済安全保障推進法に基づく「特許出願非公開制度」がスタートしました。
この新制度について解説します。
1.新制度の概要:
特許法に基づく通常の特許制度では、出願から1年半経過すると特許庁によって全て公開されます。これは、発明を社会に共有してもらう代わりに発明者に一定期間独占する権利を与える、という考え方です。ですが今後は、安全保障上の脅威となりうる技術が特許出願された場合には出願公開が制限されます。
具体的には、特許出願の審査が2段階で行われ、まず、特許庁が一次審査をします。これは、政令で指定された25の技術分野に該当する発明か否かの審査です。これには、ステルス戦闘機やレーザー兵器や潜水艦やロケットや核爆発装置などの技術分野が含まれます。
次に、内閣府が二次審査をします。これは、その技術が本当に安全保障上の機微技術に当たるか否かの審査です。保全審査の結果、保全指定されると、その特許出願は公開されなくなります。
また、出願を取り下げて自ら公開することや、外国の特許庁に出願することも禁止です。
2.新制度の背景:
ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡や日本近海における中国・北朝鮮の軍事行動の急増など日本の周りの国際情勢が複雑化しています。このような状況の下で、日本の安全保障を経済面から確保することが必要です。
そこで、ちょうど2年前の令和4年5月に、経済安全保障推進法が国会で成立しました。この法律で、重要物資のサプライチェーン強化など4つの新制度が創設されました。そのうちの1つが、特許出願の非公開制度です。
3.新制度の意義:
機微技術の発明が公開されて、世界中の誰でも自由に見れるようになると、日本の安全保障は脅威に晒されます。したがって、特許出願の非公開は、現在の国際情勢に鑑みると絶対に必要な制度だと思います。このような制度は欧米諸国では既に導入されているので、日本での導入はむしろ遅すぎたくらいです。
新制度の対象となる企業にとっては、当然、負担が増えます。しかし、日本が戦争に巻き込まれて経済全体がガタガタに疲弊することを思えば、企業にとってもずっとマシなはずです。なので、企業はそのことを理解して、新制度には真面目に対応すべきだと思います。そのためにも、政府は制限を受ける企業に対し、十分な補償をすることが必要です。
4.新制度への期待:
繰り返しになりますが、この制度は日本の安全保障にとって絶対に必要な制度だと思います。なので、本来非公開になるべき機微技術が外に漏れたりすることのないよう、新制度の運用が確実になされることを期待します。我々弁理士も知財の専門家として企業と政府の橋渡しをする立場から、新制度が円滑に運用されるようしっかり貢献すべきだと思います。
出典)特許庁HP