令和8年5月25日 講演録
『知財で差をつけろ!
成長する中小企業の商標戦略』
令和8年5月25日 講演録
『知財で差をつけろ!
成長する中小企業の商標戦略』
1)皆様、こんにちは。私は弁理士の児嶋秀平と申します。本日は貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。// 本日は、「知財で差をつけろ!成長する中小企業の商標戦略」と題しまして、小一時間、お話をさせていただきます。
2)商標戦略とは、商標登録によってブランド価値を守り育てる戦略をいいます。商標戦略は企業の知財戦略の一分野であり、中小企業にとって最優先分野です。例えば右の表は、日経新聞が発表した日本で最も急成長しているスタートアップです。私が調査した結果、これら14社すべてが自社名の商標登録を済ませていました。// では、なぜ成長企業は、決して少なくない手間とコストをかけてまで、商標登録にこだわるのでしょうか。本日はその理由とその方法を解き明かしていきたいと思います。
3)お話を進める前に、自己紹介をさせてください。私の肩書は、児嶋国際特許事務所の所長弁理士です。2021年に弁理士試験合格後、都内で開業しました。最初は特許も意匠も商標もなんでも引き受けるよろず屋として始めましたが、業務を続けるうちに、中小企業にとって最も大事な知財は商標だという思いを強くし、2022年に業務を商標専門に絞って現在に至っています。// 昨年には、私のノウハウをまとめた商標戦略の指南書を出版しました。全国の大型書店やAmazonなどで、2090円で販売されています。この写真は先月新宿の紀伊國屋で撮影したもので、その時は本棚にまだ4冊並んでいました。機会があれば、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです。
4)本日の目標は、まずは皆様に最後までお聴きいただくことで、自社ブランドを商標登録する必要性について腹落ちしていただくこと。そして、特許事務所の弁理士の言いなりにならず、互角以上の商標知識で渡り合い、適切な商標登録ができるようになっていただくことです。// さらにあわよくば、わざわざ特許事務所に依頼しなくても、自社のリソースだけで適切な商標登録ができるようになっていただく、というところまで目指したいと思っています。
5)この目標を達成するために、本日お伝えすることは7点です。商標制度の概要、商標出願の手順、その商標は登録可能か、どの商標で出願するか、審査官とどう戦うか、商標権をどう守るか、そしてまとめです。// 234が出願段階、5が審査段階、6が登録後についての説明です。最後に、どんなご質問でもお受けしたいと思います。
6)それでは、商標制度の概要から説明を始めます。
7)商標制度のすべては、「商標法」という法律に定められています。このあとの説明では、必要に応じて商標法の条文番号を示しますので、講演のあと関心があれば条文を参照されることをお勧めします。ただ、商標法はよく改正されるので、最新版はパソコンで「e-gov、スペース、商標法」で検索してください。e-govは日本政府が提供する無料サービスです。// ここで、右の画面の一番下の、商標法第1条をご覧ください。商標法の目的は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することにあります。
8)「商標」とは、商品又は役務について使用する、文字や図形などをいいます。役務とは、サービスのことです。商標は、自社の商品やサービスを他社のものと区別するために使用されます。使用とは、商標を商品や包装、看板、広告などに表示することです。// 例えば、蔦屋書店と、その下のオープンイノベーションフィールドは文字商標です。その右は図形商標で、一番右は文字と図形の結合商標です。なお、これらは商標登録されており、オープンイノベーションフィールドは東京都の登録商標で、他の3つはカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の登録商標です。
9)「商標登録」とは、特許庁に商標を登録して商標権を得るための法的手続をいいます。商標は、申請すれば自動的に登録されるものではありません。出願し、厳格な審査をクリアした商標だけが登録されます。// したがって、「商標申請」という言い方は誤りで、専門家からはやや違和感を持たれます。正しい言い方は「商標登録出願」か、その短縮形の「商標出願」です。なお、「登録商標」とは、商標登録を受けている商標のことです。世の中には商標登録を受けていない無防備な商標もたくさんあり、それらは「未登録商標」と呼ばれます。
10)「商標権」とは、商標登録によって国家から付与される強力な知的財産権です。商標権を持つ企業や個人を「商標権者」といいます。商標権者は、自社の登録商標を独占的に使用できます。また、競合他社が紛らわしい商標を使用することを排除できます。これにより、商品名やサービス名、社名に蓄積した消費者の信頼、すなわちブランド価値を法的に保護することができます。// そして、特許権と意匠権はそれぞれ20年と25年で消滅してしまうのに対し、商標権だけは10年ごとに何度でも好きなだけ無審査で更新することができます。例えば右下の商標は、明治35年から現在まで120年以上存続する日本最古の登録商標で、商標権者は兵庫県の酒造会社です。このように、知的財産権の中で唯一、半永久的に維持できるのが商標権の最大の特長です。
11)商標登録で得られる具体的なメリットは、主に7つに整理されます。商標権者は、自社ブランドを独占でき、模倣ブランドを排除でき、将来の不安から解放され、ライセンス料を獲得でき、商標登録表示を誇示でき、模倣品を水際で遮断でき、さらにネットで販路を拡大できます。以下、順に説明します。
12)第1のメリットは、自社ブランドの独占です。商標登録により、商標権者は、登録商標を指定商品・役務について、独占的に使用できます。この効力を「独占権」といいます。このメリットにより、自社の商品・サービスを競合他社と明確に差別化でき、ブランドを確立できます。// 例えば、家電量販店には国産品や中国製など様々なメーカーの炊飯器が並んでいます。その中で、特定の炊飯器だけに「パナソニック」という商標が表示されていれば、消費者はその商品の品質やアフターサービスなどに絶大な信頼を寄せて、多少他より値段が高くてもパナソニックブランドの炊飯器を購入するのです。商標の最も基本的なこの機能を「自他識別機能」といいます。
13)第2のメリットは、模倣ブランドの排除です。商標登録により、他人が同一又は類似商標を無断で使用すると商標権侵害となります。ポイントは、同一商標だけでなく類似商標も対象である点と、たとえその他人に模倣の意図がなくても商標権侵害になる点です。このような商標権侵害を、商標権者は差止請求権や損害賠償請求権を行使して排除することができます。この効力を「排他権」といいます。// 具体的には、まず相手方に警告書を送り、応じなければ裁判所に訴えて、法廷で自社に商標権があることを立証すれば容易に勝てます。以上は民事上の対応ですが、さらに、故意による悪質な商標権侵害には10年以下の拘禁刑及び1000万円以下の罰金という刑事罰も課されます。このような重い罰則があることが、模倣品業者への強力な抑止力となっています。
14)第3のメリットは、将来の不安からの解放です。商標登録により、商標権者は競合他社による同一又は類似商標の登録を封じることができます。そのような出願は特許庁の審査で拒絶されるからです。// 逆に、もし自社ブランドを商標登録せずに無防備な状態で放置するとどうなるでしょうか。ある日突然、正当な商標権者を名乗る他人から警告書が届いて、手塩にかけて育てた自社ブランドが使用できなくなる。そういうリスクが継続的に生じ続け、永久に解消することはありません。さらに、このリスクはビジネスが拡大しブランドが有名になればなるほど、際限なく増大していきます。// したがって、商標登録を後回しにすることは極めて危険です。排他権を行使するか否かにかかわらず、将来の不安から半永久的に解放されるという絶対的なこの安心感こそが、実は商標登録を行う最大のメリットなのです。
15)第4のメリットは、ライセンス料の獲得です。商標登録により、商標権者は他人に対し、登録商標の使用を有償で許諾すなわちライセンスできます。また、商標権そのものを有償で譲渡すなわち売却することも認められています。ライセンス料や売却価格などの対価は、その登録商標のブランド価値を反映した金額です。金額に上限はなく、時には莫大な額になることもあります。// 例えば、米国のアップル社は、2008年に日本でiPhoneを販売するために、50年以上前から自社名を商標登録していた日本のアイホン社とライセンス契約を結び、現在も毎年数億円に及ぶ巨額の対価を支払い続けているとされています。
16)第5のメリットは、商標登録表示の誇示です。商標登録により、商標権者は登録商標に添えて、登録第◯◯号の文字やRマークを表示できます。例えば「児嶋国際特許事務所」は私の登録商標なので、このようにRマークをつけています。// 商標登録表示を登録商標につけるかどうかは商標権者の自由です。しかし、未登録商標につけると刑事罰が課されます。したがって、商標登録表示は模倣者に対する警告となり、模倣ブランドの市場流通を未然に抑止する効果が期待できます。特に競争の激しい市場では、商標登録表示を積極的に活用することが、中小企業が競争力を確保するための有効な戦略となります。
17)第6のメリットは、模倣品の水際遮断です。商標登録により、商標権者は商標権侵害物品の国内流入を、関税法に基づいて税関で止めてもらえます。これを、「知的財産権侵害物品の輸入差止制度」といいます。全国9か所の港にある税関で、年間約3万件の遮断実績があり、その9割以上が商標権侵害物品、すなわち模倣ブランド品でした。// 輸入差止の申立手続は無料で、没収された模倣品の廃棄費用も税関が全額負担してくれるため、模倣対策にかけられる資金に限りのある中小企業にとって使いやすい制度です。
18)第7のメリットは、ネットでの販路拡大です。商標登録により、商標権者は、ネット通販サイトの模倣ブランド品の削除要請ができます。削除要請は、ブランドが商標登録を受けていることが条件だからです。代表的なのはAmazonのブランド登録です。楽天市場やYahoo!ショッピング、メルカリなども同様のサービスを提供しています。// 流通経路が限られる中小企業にとって、ネット通販サイトは全国市場参入への有力手段であり、そのため商標登録は不可欠です。私のお客様の中にも、主にこの目的のために商標登録を行った中小企業が多くいらっしゃいます。// 以上が、商標制度の概要です。
(続く)